国分寺 精神科 心療内科 大学通り武蔵野催眠クリニック メンタルクリニック

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さらに催眠療法について詳しく知りたい方のために、補足説明を以下に加えました。それらの説明は、院長自身の経験や、最後に掲げた文献を参考に記されています。少し学問的になりますので、興味のある方だけお読みください。これらについての理解がなくても、催眠療法を受けることにはまったく支障はありません。

催眠の歴史

現代催眠に酷似したものの記録は紀元3世紀のエジプトのパピルス文書が最初と見られており、その後各世紀とも催眠が世界に広く行われていたことを裏付ける文書や絵画が残されているものの、長く学問の俎上に乗せられることなく、キリスト教社会では悪魔の崇拝として退けられていました。
18世紀後半、オーストリアにメスメルが現れると、ようやく催眠に科学的視点が与えられました。メスメルは、宇宙を満たしている動物磁気の影響で人体内の動物磁気が不均衡になるために疾病になり、治療者の動物磁気を患者の身体に流し込むことによって回復もたらすとして、その術はメスメリズムと呼ばれました。メスメリズムは、治療要因として治療者の大きな影響力を想定した権威的性格のものでした。その後メスメルはオーストリア、フランスに移りながら、人気を博した後に排斥されていくことを繰り返していきますが、催眠は時代と舞台を変えて受け継がれ、無意識の探求への糸口となっていきました。19世紀のイギリスではブレイドが催眠を睡眠に類似した状態と考えてヒプノティズムと命名し、麻酔に利用しました。19世紀に精神神経学のメッカであったパリでは、当時の最高権威シャルコーを中心とするサルペトリエール学派とリエボーやベルネームのナンシー学派との間で、催眠についての論争が行われました。その結果、サルペトリエール学派の主張する「催眠状態はヒステリー患者のみに引き起こされる病的な状態」との説は退けられ、「催眠は暗示によって健常者も体験する現象」とのナンシー学派の主張が正しいと結論づけられました。シャルコーに触発されたジャネは催眠を利用して特に解離性障害の治療にあたり、意識下(無意識)の固定観念を想定し、心的外傷体験を意識に上らせるカタルシス法を利用しました。同じくシャルコーに影響を受けたフロイトはヒステリー患者に対してカタルシス法や直接暗示で症状除去を目指す権威的な催眠を試み、必ずしも全ての患者が催眠に入るわけではなく、効果は長く続かないとして催眠を捨て、自由連想法など独自の方法で無意識を探求し、精神分析学の基礎を築くことになりました。
一方、米国には19世紀後半にポーエンによって動物磁気説が紹介され、シャルコーの下に留学したプリンスが解離性同一性障害(多重人格性障害)などの治療にあたり、異常心理学の発展に貢献しました。20世紀に入ると、催眠研究と応用は米国へとその舞台の中心を移していきます。ハルは行動心理学の手法を用い、催眠の本質を被暗示性の亢進と捉え、意識状態の変性を前提にする必要はないとの見解を示しました。その後もホワイトの目標努力説、サービンの役割説、バーバーの課題動機付け説など、催眠を意識の変性状態とみなす必要はないとの説が相次いで出されました。それに対してヒルガードは催眠感受性について研究し、ジャネの解離理論を発展させ、催眠の状態論を援護しています。
そして20世紀における催眠の概念、利用などについて革新的なパラダイムシフトを引き起こしたのは、ハルの弟子のミルトン・エリクソンでした。催眠の実験研究においては、型にはまった暗示を利用して患者の反応を調べるスタンスがとられていましたが、エリクソンは治療者—患者間の信頼関係すなわち対人関係的視点を強調し、暗示に反応しないことを抵抗と考える立場を捨て、抵抗と目されるものも含めて患者の反応や資質を催眠の中で利用することが肝要と考え、個々の患者に合わせた催眠の適用を唱えました。現在の臨床催眠では、このエリクソンのスタンスが広く受け入れられています。

催眠の定義について

上のような長い歴史を持ちながら催眠の定義は今もって曖昧であり、実は催眠状態という変性意識状態を想定する立場(状態説)と、それを想定する必要はないと考える立場(非状態説)があり、決着に至っていません。脳波、脳画像等の生物的指標でもデータやその解釈に一致が見られていません。近年の画像診断の進歩はめざましく、催眠は脳生理、特に前帯状回と前頭前野の機能が密接に関与しているとの知見は意識の変性状態を想定する立場を擁護するものでしたが、脳画像の変化は暗示に対する反応の反映に過ぎないとの反論もあります。
最近では、催眠を種々の特性を備えた複合体的なもの、たとえば変性意識状態、対人関係、被暗示性や期待などの多面的な性質を持ったものと考えるのが主流です。
川嶋自身は、変性意識状態が存在すると同時に、治療者と患者様の信頼関係なしではそもそも催眠が治療的に機能せず、変性意識状態を想定する立場、対人関係から考える立場とは相矛盾したものではなく、同じものを見る際のそれぞれに有用な視点と考えています。

催眠療法を行う際の前提になる治療哲学について

ミルトン・エリクソンが催眠にもたらした独創的な視点は、現代の催眠だけでなくブリーフセラピー、家族療法など非催眠的治療にも裾野を広げています。以下にその骨子をまとめてみましょう。

1.利用法

エリクソンは患者の個性に合わせた催眠誘導法を通して利用法を発展させたましたが、治療の中に利用されるのは患者のボディ・ランゲージや行動、信念、考え方、感じ方、経験から、否定的な感情や混乱、一般に治療抵抗と見なされるものや症状、偶然の状況や患者周囲の環境にまでにわたっています。たとえばある少年の夜尿症の治療に際して、少年の得意なアーチェリーでは目、手、腕、胴の協働を通してうまく筋肉を使えることを利用し、「膀胱括約筋もうまくコントロールできる」との間接的な暗示を与えることで治療効果を生み出しています。

2.意識の多重構造

患者様やご家族など周囲の方の意識的な問題解決の努力にも関わらず問題を解決できずに来談されるため、意識を迂回して無意識に直接アクセスすることが有効と考えられる場合が少なくありません。この際、無意識は治療の際に利用すべきリソースとして肯定的な側面から捉えられます。
例えばエリクソンがある女性の性関係を扱った際、患者が直接に問題に触れるのを躊躇するため、性のことに全く触れずに食事の話をする中で性関係を修復したりしました。それが可能だったのは、患者の意識の上では食事の話として理解されると同時に、無意識のうちに話の意図について思いをめぐらされていたからと考えられます。上の夜尿症の症例でも同様に、夜尿症の話を避けてアーチェリーの話が治療効果を得るべく工夫されており、一般にエリクソンが頻繁に利用した逸話は意識の多重性から理解されます。

3.円環的な因果関係の視点

精神疾患だけでなく身体疾患でさえも、問題は患者様の中だけにあるのではなく、患者様の属するシステムの中で理解されるべきものと考えられています。上の夜尿症の例でエリクソンは、親子の競合関係の中で悪循環が形成され、夜尿という症状が維持されていることを見抜き、まずは両親を診察室から退室させてエリクソン自身が少年と信頼関係を築いてから、友好関係の文脈の中で催眠を利用しています。

4.人間成長の信念と未来志向

治療のためには過去を振り返ることよりも、患者様のリソース、成長を期待して未来を想像していくのを援助することが得策だとエリクソンは考えていました。エリクソンはたとえば、ある同性愛者の治療で、料理や筆記、女性との交際のために必要なダンス等々を習わせたりしており、患者の成長に必要なスキルを学ばせることも時々にしていました。

催眠における患者—治療者関係

催眠が患者様にとって安全で安心なものとなるためには、患者様と治療者の間に信頼関係が築かれている必要があります。あやしい治療者の催眠なんて誰も受けたくありませんし、安心して催眠状態にも入れませんよね。精神力動的な言葉を使えば、転移、逆転移が速やかに起こるため、治療者はそれらに気づきながら治療的な文脈で生かしていくことで催眠の真の治療効果を期待するのがよいと考えられます。

催眠現象と催眠療法の治療的な文脈

催眠に入ると、日常生活では実感しにくい現象を体験しやすくなりますが、それらは「催眠現象」と呼ばれています。たとえば催眠状態に入るとリラックスしやすいため、対人緊張が強くて困っている患者様に対してリラックスできる体験を繰り返しもっていただくことで、緊張する場面でもリラックスしやすくなっていきます。また現時点でご自身の持っている力(リソース)に気づけていない方に、本人さえ忘れていた成功体験に心理的な時間を戻してやることで自身を取り戻していただくようなこともあります。身体の痛みを訴えている方に対して、痛みの感覚から注意をそらせたりしてわずかなりとも楽になっていただくことも可能な場合があります。 患者様が抱えておられる問題、状況はすべて異なるため、治療者の見立ては非常に重要になります。見立ての際には多くの場合、単に「症状をなくなれば良い」という考え方をせず、そうした症状を抱え込んでしまうに至った患者様独特の悩み方、性格、さらには患者様を取り巻く状況、環境を考慮した上で、可能な回復の仕方、改善した状況を想定しつつ、治療目標を患者様と共有していく作業が大切になります。
催眠状態では、種々の催眠現象が体験されやすくなります。その利用の仕方は治療者の意図にもよりますが、患者様に自然に催眠現象が起こることがしばしばあり、可能な限りその自発的な体験を治療的な文脈にまとめていくのがよいと考えられます。催眠現象には、以下のようなものがあります。

リラクセーション

催眠状態に入ると、多くの方はリラックスします。その際には自律神経のうちの副交感神経が優位になるため、心臓の拍動や呼吸がゆっくりと落ち着き、それと平行して心も落ち着いてきます。

観念力動反応

催眠状態に入ると次第に意識的、意図的な努力が減り、いろいろな体験が起こるに任せる傾向が強まります。観念力動反応は、考えたことが非意図的に運動、感覚、感情などの形で表現される現象です。たとえば、足の上に置かれた手が空中に上がっていくとの暗示に反応し、手が上がると考えただけで非意図的に手が上がっていく場合、観念運動反応と呼ばれます。また手を冷水につけたと想像するとの暗示によって手が冷たいと感じられる場合は観念感覚反応、何かの体験を想像した場合に自然に感情がわき上がってくる場合には観念情動反応と呼ばれています。

時間や空間の観念における柔軟性

時間的、空間的に現実的は枠から離れることが出来る体験です。たとえば、過去のある時点のある体験に戻る現象を年齢退行と呼び、臨場感を持って過去の体験に浸ることも可能になります。一方、未来のある時点に時が進められる現象を年齢進行と呼び、未来の体験を実感できる現象です。患者様が症状に苦しみ始める以前に戻って健康な身体感覚を再体験したり、回復した未来に年齢進行して回復のために何が必要かを先取り的に体験したりすることは治療的と考えられます。

感覚の変化

催眠状態ではしばしば、感覚が歪曲されたり、強まったり弱まったり、選択的になったり、幻覚が体験されたりします。身体運動感覚の変化は一般に容易に起こり、身体のリラックス、暖かさ、重さを感じたり、身体の一部が切り離されたように感じたり、頭が大きくなったように感じたり、視覚の周辺が暗くなったりぼんやりしたり、等多様なものでありえます。また周囲の雑音は聞こえないのに治療者の声だけは聞こえており、それは距離やトーンなどが最初と異なって聞こえてきたりします。

意識状態の揺れ

催眠状態に入った後も催眠の深さは動揺することが多くあります。軽催眠ではほとんどの体験を覚えていますが、深催眠での体験は覚醒後に忘れていることが多く、自覚的には眠っていた感覚になります。最も治療的変化が現れるのは、意識と無意識が混合された中等度の深さの催眠状態といわれています。

運動・言語の抑制

催眠状態では多くの場合閉眼し、身体を動かしたり話したりすることが極端に減り、外からは眠っているように見えたりします。

時間歪曲

時計で計測される科学的な時間と異なり、例えば面白いテレビ番組はあっという間に見終わってしまう一方で、つまらない講義は非常に長く感じられるという心理的時間があります。催眠状態下では理屈的な枠組みがはずれ、さらに時間の感覚が歪曲されやすくなります。覚醒後に、催眠に入っていた時間が実際よりも遥かに短く感じられることはしばしば起こります。

健忘

催眠状態下での体験は、しばしば覚醒後には忘れられています。特に深い催眠から覚醒した後には、治療者の暗示を完全にもしくは部分的に健忘されやすくなっています。催眠状態下で外傷体験が想起された時には、それが治療場面外で再生されて患者様を驚かすことがないよう、意図的に健忘の暗示を与えることもあります。

後催眠暗示

患者様が催眠状態にある間に、催眠が覚醒した後の反応を暗示しておくものです。ショー催眠では、「目が覚めた後に、コップの水を飲む」などと暗示し、被催眠者は無意識にコップの水を飲んで、それを見ていた人が驚いたりしますね。ただ、治療的にはそのような文脈で利用されることは少なく、「この体験は催眠が覚めてからも必要な時に思い出すことができます」くらいの言い方がなされることが多いです。

催眠感受性

上のような催眠現象をどれくらい体験できるかについての患者様側の素因を催眠感受性と呼び、公式化された催眠感受性スケールで計ることができます。ただ、経験的には治療的な信頼関係が確立されていれば自然に催眠が深まるため、催眠感受性試験の結果が必ずしも催眠療法の効果と並行しないともいわれ、一般に臨床目的で催眠感受性の測定が行われることは多くありません。

参考文献

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