日本臨床催眠学会主催の事例検討会に参加しました
2019年2月25日
2019年2月10日に神戸の大手前大学で開催された、日本臨床催眠学会主催の第53回事例検討会に参加しました。事例検討会というのは一般の方には聞き慣れない言葉と思いますが、患者様もしくはクライエント様の許可をいただいた上で、その診断や治療経過などを専門家の間で議論し、その後の治療や参加する専門家の研鑽のために役立てる機会のことを言います。
その詳細は個人情報にあたりますのでここでは述べませんが、事例検討会のたびに思うのは、同じ診断を受けた患者様であっても、それぞれの方で悩み方、置かれている状況は全く異なり、その援助の仕方が異なるということです。もちろん治療者によっても見立てや治療法が変わりえますが、今話題にしたいのは、同じ診断の方に対しても個々に治療的なアプローチを変える必要があることです。近年は治療の「エビデンス」がとても重要視される傾向があります。エビデンスというのは、ある診断の疾患に対して、1つの治療法がどれくらい効くといえるのか、その客観的な証拠のことをいいます。実際にエビデンスを出すには、1つの診断を受けている患者様を多く集めて、エビデンスを証明したい治療法と他の治療法とに割り当て、その効果を統計処理して比較する、という手続きを取ります。
世の中には、このエビデンスをとても大切にする専門家と、そうでない専門家がいます。エビデンスがしっかりしていない治療法を受けるというのは、患者様から見ても心配になるのも無理はありません。一方で、エビデンスというのは1人の患者様に対してその治療法が効くかどうかについては十分な情報を与えてくれません。極端なことを言うと、100人中95人の患者様に効果があるとのエビデンスが存在していても、その治療を施して治らない場合に「残りの5人に当たるので、治らなくても仕方ありません」と治療者が申し上げるわけにはまいりません。特に催眠療法のようにマニュアルにはなじまず、個々人の特性に合わせて、いわばオーダーメイドで行わなければならない治療に慣れていると、あまりエビデンスには頼る余地がありません。専門家としてエビデンスを知っていることは絶対必要ですが、「藁をもすがる」思いで来られた患者様は、すでに多くの治療者との関わりの中で治療困難とされてきていますので、エビデンスだけを大切にするのなら、最初からもう治療の余地はあまりないわけですね。
個人情報に触れない程度で申しますと、今回の事例では「暖かさと冷え」という話がとても重要なテーマになっていました。患者様が訴えるのは「身体」の冷えでしたが、実はそうした訴えを聞く時には身体のことだけでなく、「心」の冷えや「人間関係」の冷え、なども連想することが治療者に要請されます。もちろん「心」の冷えや「人間関係」の冷えは、1人1人の方が個々の文脈を抱えておられるのでその見立ては大変なのですが、一方でそうした複数の文脈を同時に扱うことのできる催眠療法はありがたい、と思ったり致します。
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