国分寺 精神科 心療内科 大学通り武蔵野催眠クリニック メンタルクリニック

ビートたけしさんの『菊次郎とさき』

ビートたけしさんの『菊次郎とさき』

2017年10月25日

お笑いや映画の才能に秀でたビートたけしさんが子供の頃の体験を綴ったもので(一部には脚色もあるようです)、テレビでも放映されたのでご存じの方が多いかもしれません。お母様のさきさん、お父様の菊次郎さん、そしてさきさんが亡くなられた時のことを記した3章からなっていますが、これを読む限りではたけしさんは随分苦労されたであろうと推測されます。

 

さきさんのことを描いた章は、たけしさんが軽井沢の病院に入院しているさきさんを見舞うようお姉さんから連絡があった、という話から始まっています。さきさんはたけしさんが見舞いに来ないので怒っていると聞き、まずは入院先の病院に電話を入れますが、お母様の対応はちょっと変わっています。最初は「来なくたっていいよ」と言われ、次の瞬間には「本当に来るの?いつ来るんだい」と訊いてくるので、たけしさんも(何だ期待してるじゃないか)と内心思います。ところがさきさんはさらに、世話になっている病院スタッフに何十万という商品券をお礼として持参するように言いつけ、驚いて「ちょっと待って」と答えるたけしさんに間髪入れず、「それくらいのこともできないのか。ばかやろう」と言って電話を切ってしまいます。これではたけしさんも、見舞ってほしいのか見舞ってほしくないのか、喜んでくれているのか怒っているのかわからず、困ってしまいますよね。大人のたけしさんならそこから母の愛情を感じることもできるのでしょうが、「オフクロはちっとも変わっていない」と言われており、子供の頃もそうだったとすれば、たけしさんも随分混乱したのではないかと思われます。これは二重拘束(ダブルバインド)と言われるコミュニケーションの形態で、相矛盾するメッセージが同時に発せられるため、聞いた方は発話者の意図や感情がわからなくなるのです。

 

たけしさんはお母さんの病院を見舞う道中に過去を回想しますが、さきさんのたけしさんに対する接し方は全般的に特異です。いきなり6年生になった年の誕生日に何かを買ってくれると聞かされたたけしさんは最初喜びますが、本屋に連れて行かれて「本かあ」とつぶやいた瞬間に後ろから思い切り殴られたといいます。買ってもらったのは参考書で、その晩からたけしさんの意に反してそれを広げさせられ、手を抜くと殴られたりほうきで突かれたりしたということですから、今の言葉で言えば虐待にあたりましょう。近所のおばさんからグローブを買ってもらったたけしさんは、お母さんがそれを見たら怒るに決まっているので庭の木の下にビニール袋に入れて隠していたところ、いつの間にかビニール袋にはグローブの代わりに参考書が入っていたとのエピソードも紹介されています。たけしさんからすると行きたくもない大学の理学部に進学させられ、それでも下宿を許されてようやくお母さんの手から逃れ出たと思われたでしょうか、家賃を何ヶ月かためた後には、お母さんがたけしさんには告げずに家賃を肩代わりしていたともいいます。その後たけしさんがこっそりと大学を中退したり、芸人の道に入ったり、そこを一時逃げ出したりしたことも全て知っていたようです。そして、たけしさんが芸人として身を立てるようになってからは、さきさんはたけしさんに何度も金の無心もしているのですが、さきさんの死後、そのお金はたけしさんが困った時を心配して手を付けずに貯金してくれていた、とたけしさんに知らされることになります。こうしたお母様の接し方は、一面では美談と言えないこともありません。しかしたけしさんにとっては、全てがお母さんに先回りをされ、お釈迦様の掌から逃れられない孫悟空のような気持ちを抱かせていたであろうことは想像に固くありません。お母様に愛情があったのは間違いないでしょうが、お母様の意図はたけしさんに直接言葉で伝えられないので、たけしさんからすればお母様に常にコントロールされていると感じられたことでしょう。

 

そのようにお母様がある意味「猛母」であらざるを得なかったのは、お父様の菊次郎さんが父親としての機能を果たせていなかったこととも関係がありましょう。お父様は大工で、酒を飲まないと小心者、そして酒を飲むと大きなことを言ったり、酔っ払って周囲の人に大迷惑をかけたりしていたようです。神経症タイプの優勢なアルコール依存症、といえるかもしれません。お父様は、たけしさんの父兄参観日やお兄様の結婚式などで酔っ払って大問題を起こしており、さぞご家族は大変だったことでしょう。またお父様がお母様に暴力を振るっていたのも、子供が受けとめるのには困難な状況であったはずです。

 

こうしたことから、たけしさんのご家族では父親は父性を見せることが出来ず、母親が父性の役割をとって母性が後ろに隠れてしまったために、たけしさんご兄弟はご苦労をされたものと考えられます。『菊次郎とさき』には出てきませんが、たけしさんが毒舌や社会風刺、あるいはフライデー襲撃事件という形で社会規範を乗り越え(そうになっ)たり、映画という常識を通り越すことが許される方法でご自身を表現されたりするのも、子供のたけしさんの延長にあるということなのかと思ったり致します。

 

 


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