谷崎潤一郎の『少将滋幹の母』 〜 母親の喪失について
2017年7月18日
谷崎潤一郎が平安時代の文学から着想を得て著した小説ですが、その主題は現代においても考察に値します。舞台は平安時代の貴族の世界で、時の権力者藤原時平は老伯父の藤原国経から愛妻である年若き北の方を奪い、あとに残された国経と、国経と北の方の間の子供、後に少将となる滋幹の苦悩が描かれています。子供は両親から十分な愛情をもって養育されるのが理想的なのは言うまでもありませんが、滋幹は大人たちの勝手な事情で母親を失い、与えてもらえるはずの母親の愛情を突然に奪われています。
事件当時滋幹は5歳で、この年齢では上のような事情を客観的に理解するのは不可能です。いきなり母が自身や父のもとを去ったことについては誰からも十分な説明はなされず、滋幹は余計にさまざまな憶測の下で苦しまざるを得ません。おぼろげに母の記憶があり、しかも母は別な場所に健在で、母に異父兄弟が生まれたり、父国経からは母への批難を聞き、短期間ながら母と元恋人との連絡役を強いられるという特殊事情も加わったのも事情をさらに複雑にしています。「母に愛されないのは自分が醜いからではないか」との断片的表現もありますが、滋幹の心中は察するにあまりあるものと推察されます。
小説の結尾で谷崎は、40歳半ばにして滋幹を母に再会させ、その後のなりゆきを読者に任せています。北の方はすでに出家し、京都のはずれの山荘に身を寄せていました。会おうと思えばもっと早く機会を作れたはずなのに、滋幹はどのように母の顔を見たらよいものかわからなかったようです。しかしその日、滋幹は何かに引かれるように母のいる山荘に足を踏み入れ、偶然庭に出ていた母と再会します。40歳半ばの滋幹は母の膝元に崩れ落ちますが、北の方は本来その滋幹を受けとめることのできる優しい女性と想像され、約40年持ち去られたままだった母の愛情をここに受け取ることができたのではないでしょうか。
たださらに想像をたくましくすると、滋幹のことは正直とても心配です。母に十分に愛されるというのは子供が幼少期にこなしておくべきライフサイクル上の必修課題ですが、それが40歳を越えて積み残されていた結果として、滋幹は未だ独身です。母と再会し、受け入れられるプロセスを通して、その後は母以外の女性に関心が向けられるのかもしれませんが、滋幹にはどのような女性を愛することが可能なのでしょうか。5歳の時に引き離された、美しく汚れのない母親さながらの女性でしょうか。それは滋幹からするとかなり年下の女性かもしれませんが、この状況はまさに父の国経と母である北の方の関係の再現ではないかと憂慮されもします。いずれにしろ、幼少期に未消化の課題の乗り越えのために、滋幹は生涯莫大なエネルギーを費やさざるを得なかったと推測されます。
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