松木繁先生の『無意識に届くコミュニケーション・ツールを使う ―催眠とイメージの心理臨床』 〜 催眠療法の最高峰
2018年3月5日
この本は、『催眠トランス空間論と心理療法』に続く松木繁先生の主著ということが出来ます。松木先生は私の催眠療法の師にあたりますが、催眠のような職人芸を伝授し、引き継ぐというのは非常に難しいもので、松木先生ご自身にとっても催眠の高度なスキルを正確に弟子たちに伝え、理解させるのは容易な作業でなかったようですが、学ぶ側も随分と試行錯誤を重ねてきたとの思いがあります。この本は私が読む限り、催眠の極意とも言える高度な技術を、ご自身の関与された事例も掲げながら、噛み含めるように書き下されており、松木先生の著されたものの中で最も読みやすく、納得のいくものとなっています(ただ素人の方、催眠になじみのない専門家の方には少し難しいかもしれませんが)。
松木先生の催眠には日本でも人気のあるミルトン・エリクソンの催眠との共通点もありますが、松木先生はエリクソニアンではなく、この著作には独自の催眠を編み出され、工夫された軌跡を随所に見て取ることができます。ただ、その工夫は円空菩薩に残される彫刻刀の跡のように確かでありながらはるかにさりげなく、少なくともクライエントさんには全く気付かれないような繊細な配慮であると理解していただけましょう。先の著作にもある共感的な催眠トランス空間論に始まり、催眠下におけるクライエントの反応を利用して適切な援助の糸口を見出していく方法、クライエントの言葉の中の個性的な語りさらには語られないものの捉え方、「悩みの内容」ではなく「悩み方」を扱うことで治療につなげていくとの視点、クライエントの言葉や身体に表現される心身の両義性など、臨床の叡智が吐露されています。
最後には、催眠の導入時に特に役に立つパッケージ化された催眠マニュアル、トランスクリプトが付録として添えられます。パッケージ化されていても個々のクライエントさんに合うように適宜修飾・修正され、治療者の臨床感・人間観がにじむことになるはずのものですが、初学者の方にも役に立つこと請け合いです。
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