日本精神神経学会第117回大会にオンデマンドで参加しました(3)~松本俊彦先生の「最近の薬物関連精神障害の動向」
2021年11月24日
今回は、令和3年9月19日―21日に開催された日本精神神経学の会第117回大会についてのご報告の第3弾です。ご紹介するのは、多分多くの皆様にはなじみがないと思われる薬物依存症に関するもので、松本俊彦先生によるシンポジウム「最近の薬物関連精神障害の動向」について興味深いと思われることをお伝えいたします。
まず多くの方の驚きだろうと思うのは、最近薬物依存として問題となる薬物の半数は、覚せい剤を中心とした違法薬物ではなく、市販薬だということですね。その中には、咳止めや風邪薬のようなものがあり、そこには覚せい剤の原料やオピオイド(麻薬系)の薬物が含まれたりするものがあるんですね。また以前から指摘されていることではありますが、精神科医の立場としては睡眠薬や抗不安薬として処方しているものが依存の対象になるというのも由々しき問題です。
薬物依存症の治療のためには、自助会は非常に役に立つことが経験的に知られていますが、最近は新型コロナウイルス感染症の蔓延のため、密を避けなければいけないために自助界のミーティングも行えなくなり、それまで薬物使用をやめられていた患者様もスリップ(再使用)してしまうことが増えた、というような残念なお話もあったりしました。
薬物依存の治療は難しいとずっと言われてきて、以前は薬物依存の患者様を刑罰で取り締まることで減らそうとしていたのですが、それは結局効果に乏しいことがわかってきています。素晴らしいのは、医療現場で薬の再使用を警察に通報しないことを前提にして患者様が安心して援助を求められるようにし、再使用をとがめるのではなく援助を求める行為として前向きにとらえる対応や、薬物依存者が服役後、市区町村の精神保健福祉センターが保護観察機関やその期間を終えて後も「おせっかいの電話」と称して患者様にその後の様子うかがいの手紙を定期的に送ったりする試みが、実際に薬物の再使用に歯止めをかけるために一定の効果を上げていることですね。
人や医療とつながれていることが薬物の再使用にブレーキをかけられるというのは、薬物が脳の構造を変えてしまって治癒不能ということではなく、人のかかわりが薬物依存症からの回復に大きな力があるという希望を投げかけてくれています。
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