天才催眠療法家ミルトン・エリクソンの英知 (3) 〜 家族ライフサイクルという考え方
2017年8月24日
人はみな生まれてから成長していきますが、成長には身体的な発達に加え、心理的発達、社会的な発達があります。食べたり、排泄することを覚えたり、立てるようになったり、第二次性徴が見られたりするのは身体的な発達ですが、身体的な発達は心理的発達と並行しています。たとえば、一人で排泄できるようになればそれは自らでこなさなければならない課題となり、それだけ自身に責任がともない、心理的発達を促す契機になります。そして自身で排泄できることは行動範囲が広がることにもつながり、仲間を作るために必要でもあります。思春期には身体だけでなく心の成長も要請され、それまでは親に相談していたようなことも友人に相談するか、一人で対処しなければならなくなります。そして社会的な責任というものも小学生から中学生、高校生、さらに年を経るにしたがって増えていきますね。このように、人の成長段階を身体的、心理的、社会的側面から考慮した概念を「ライフサイクル」とよびます。
ライフサイクルは個人についていわれるものですが、実は家族にも発達の段階があります。人はパートナと一緒になって家族を作りますが、その後子供が出来たり、さらに子供が成長したりして家族の様子は変化していき、子供の成長とともに親も成長したり、あるいは老いたりしますね。すると、家族にも「家族ライフサイクル」という成長の段階を想定することが可能です。家族ライフサイクルという言葉を使ったのは家族療法家のジェイ・ヘイリーですが、ヘイリーは師であるミルトン・エリクソンの治療について考える中でその概念に至りました。患者の問題と考えられているものが実は患者の属している家族の成長が滞って次の成長段階に移行していかないために起こっていることが多く、エリクソンはそのような場合には家族ライフサイクルが健全に進んでいくように治療をデザインしたのです。
たとえば以前ご紹介したおねしょの子供のケースでは、叱りすぎる母親に子供から距離を取らせることによって、子供が自立する方向で援助しました。あるいは母親が支配的で父親を子育てから締め出そうとする状況があるケースには、母親と父親が協力できるような方法を工夫することで、より健康な家族に成長していけるよう考えたりもしています。
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