夜尿症に対する催眠療法
2019年7月8日
夜尿症は本人であるお子様、あるいはお子様以上にご家族を悩ませる問題です。夜尿症にも生まれてから全く治ったことのない場合、いったんは治ったものの再発する場合などがあり、原因としても身体的な発達が十分ではない場合、家族や学校などの環境つまり心理社会的要因が深く関わっている場合など、いろいろです。治療法としては、薬や夜尿アラームなどが知られています。夜尿アラームというのは、尿がシーツを湿らせ始めた段階で大きな音でお子さんを目覚めさせる装置のことで、尿が出切る前に知らせるというだけでなく、尿意が感じられたらすぐに脳にその刺激が伝わる反射をしっかり脳に作ると考えられます。これらの治療はそれなりに効果があることが多いのですが、それらが十分に功を奏しない場合でも催眠が効く可能性が指摘されています。
夜尿症に対する催眠について申し上げる前に、2つだけお断りしておきます。まずは、夜尿症の原因について医学的評価が欠かせないことで、すべての夜尿症の根本原因が心理的なものと考えられるべきではありません。次に、治療がうまくいくかどうかは親御さんが夜尿という問題行動にあまり巻き込まれないと同時に、お子さん自身が治そうという強い動機づけをもっておられることが非常に大切、ということです。以下は、その条件が満たされた上でのお話だとご理解下さい。
まずは心理社会的要因を考慮したり、お子様のリソース(お子様がもっていて治療のために利用できる財産のようなもの)について情報を得るために、学校生活、趣味、友達、家族、ご本人がなじんでいるスポーツなどにわたる情報収集を行います。次に、脳と膀胱のフィードバックのメカニズムについて心理教育を行います。夜尿の問題がない場合には、排尿しなければならないくらいに膀胱に尿が溜まると膀胱から目を覚ましてトイレに行くようにとの指令がしっかり脳に伝わるので、寝床で排尿してしまう前に目を覚ますことができるんですね。そう説明した上で、普通は働いている膀胱からの指令を脳がしっかりキャッチできるようにしていく方向で同意を得るわけです。催眠を利用する場合には、そうした脳と膀胱の間にあるフィードバックのメカニズムを強化する暗示を与えたり、しっかりと尿意を感じてトイレに行くイメージを利用したりし、お子様ご自身に自己催眠を教えてそれらの治療効果が高まるのを期待したりします。お子様のリソースを治療者が理解していれば、そのお子様ならではのものとしてそれを治療的に利用することも出来ます。たとえば催眠療法家として有名なミルトン・エリクソンは、アーチェリーの得意な子供に催眠下においてアーチェリーで使う筋肉の使い方について話し、排尿の際にも同じように筋肉が働いていると伝えることで夜尿症を治癒させたりしています。
そしてお子様、親御さんの協力の下で夜尿問題にまつわる役割分担も、お子様の年齢など個々の状況で考える必要があります。たとえば、誰が濡れたシーツを処理するか、誰が夜尿をしなかった日(夜尿した日ではなく)をカレンダーに記すか、などについて相談し、お子様の役割も作りつつ自立をサポートできる枠組みが望ましいとされます。
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