うつ病に対する催眠療法
2019年7月29日
うつ病は、抑うつや悲しみ、自責感、怒りなどの感情、自身や他者に対する否定的な考え、希死念慮、不眠、身体症状などを呈し得る精神疾患で、患者様ご自身が非常に苦しいのと同時に、ご家族や関わっている治療者も自傷、自殺などの行為に至らないかととても心配になる病気です。また他の精神障害との合併も多く、その場合にはさらに治療の工夫が求められます。
うつ病にはいろいろな原因、病態が考えられますが、一般に薬をのむのが効果的な場合が多く、まずは考慮される治療法と言えます。ただ、患者様の生き方、性格、社会とのつき合い方がご自身をうつに追い込んでしまっているような一面もあり、薬をのむだけで治る方は多くなく、心理的なサポートは欠かせません。
うつ病に対する催眠療法には、いろいろなアプローチの仕方があります。以前にはうつ病のベースにある精神力動を明らかにする方法が試みられ、詳しくは申しませんが、年齢退行、観念運動シグナル法、イメージなどの技法が利用されてきました。ただその後、うつ病には特有の否定的、非健康的な認知が存在することが注目され、それらを修正する方法が主流となってきました。うつの方はたとえば、0か100かの思考をしがちだったり、結論を急ぎすぎたり、一般化が過ぎたり、肯定的な可能性を否定したりするなどの認知がなされがちだと知られています。そうした認知、考え方の癖を患者様とともに明らかにしていき、それを修正していく治療は認知療法とよばれ、現代うつ病に対してエビデンスのある治療法として知られていますが、それに催眠を加えるとさらに効果的で、速やかに治療が進むとも考えられています。ただ、近年は認知を修正しただけでは効果は充分でないことが強調されるようになり、生産的な行動を試しにやってみる中で患者様がご自身の考え方の癖に気付いたり、新しい対処法を身につけたり、成功体験をもつことで低い自己評価を高めたりするのを期待することが多くなってきました。
そのため催眠療法では、回復や自身を高める暗示、否定的な認知にも肯定的な意味を見出すような暗示、行動を促す暗示などを与えたり、年齢進行を行うことで将来の理想的なイメージを体験してもらったり、そうした暗示効果が催眠から覚めた後も継続するとの後催眠暗示を与えたり、といったことがなされます。また先回ご紹介した自我強化を利用することはしばしばで、自己催眠を宿題にすることで自ら回復している感覚を養っていただいたりすることもあります。
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