天才催眠療法家ミルトン・エリクソンの英知 (2) 〜 無意識を信頼する
2017年8月14日
心理療法にはいろいろな流派があり、それぞれに無意識に対する特有の立ち位置がありますが、ミルトン・エリクソンは無意識を「長い年月の後で呼び出しうる記憶や技術の宝庫」であると肯定的にとらえ、無意識を信頼していました。患者様が何らかの問題で困られた場合にはまずご自分なりの工夫で解決の方法を模索されるものですが、その工夫が功を奏さない場合に治療者のもとに訪れます。それまでの患者様の自助的な工夫や意識的な努力は、患者様にとって理屈に合った、手慣れた方法でなされてきています。そのためもしその工夫がうまくいかなかったとすれば、患者様の意識的でなじみのある方法をバイパスし、直接無意識にアクセスしてすでに患者様が持ち合わせている財産を利用できるように援助するのが合理的な治療法である、とエリクソンは考えたわけです。別な言い方をすれば、催眠は無意識に直接働きかけるツールであり、無意識への入り口である、ということです。
エリクソンは治療のために、特に催眠を利用しながら患者に逸話を話したことが知られています。話された逸話は聞いた者の記憶の中に長く残り、患者の抱えている問題に対する新しい展望を与え、患者の治療に対する動機づけを強めたりすることもできます。
そのようなわけでたとえば、エリクソンは性的関係に問題を抱えた夫婦の治療をする際に、性的問題は話題にせずに食事について話すことで夫婦関係を改善させたりもしています。エリクソンの見立てでは、食事関係と性的関係はある意味パラレルで、食事における夫婦の関係と性に関わる夫婦の関係には共通点があるために、食事の問題を扱うだけでも治療になると期待できたのでしょう。治療を希望した夫婦からすれば、性的問題を話しているわけではないものの、その問題で来談しているのだから何らかのヒントがあるはず、と無意識で解決法を探すことになり、患者自らがその答えを見出すという望ましい回復の仕方にもなっていたと推測されます。
ある顔の悪性腫瘍の患者の痛みを緩和するために、エリクソンは催眠の中でトマトを育てる話をしています。その患者が花を栽培して売る花屋で、トマトの話であれば患者の無意識に抵抗なく受け入れられると判断されたからですが、その話の中には「気楽にやれる」「好奇心をそそられる」「満足をもたらす」「本当は何を学べるんだろう」「見えないし感じることも出来ない」などの言葉が散りばめられ、心身がリラックスでき、身体が痛みを感じずにいられ、新たに学べる、などのメッセージが伝わったものと思われます。患者はエリクソンに会うのを楽しみとし、その後エリクソンに感謝して旅立ったと家族から報告されています。
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