国分寺 精神科 心療内科 大学通り武蔵野催眠クリニック メンタルクリニック

佐川陽子先生の『ポリヴェーガル理論とその臨床使用』

佐川陽子先生の『ポリヴェーガル理論とその臨床使用』

2021年12月12日

今回は、日本臨床催眠学会の第21回学術大会に合わせて令和3年12月11日に開催されました、肥前精神医療センターの佐川陽子先生によるポリヴェーガル理論についてのご講演についてお話しいたします。

 

ポリヴェーガル理論は日本語には「多重迷走神経理論」と訳されていますが、これは近年精神障害を理解するために非常に重要視されてきている理論です。普段私が催眠療法を行う前には、「自律神経系は交感神経系と副交感神経系のバランスで調整されていて、催眠状態に入るとそのバランスが副交感神経系優位になるのでリラックスできるようになります」と申し上げています。それは必ずしも間違いではありませんが、ちょっと不正確なところがあります。というのも、副交感神経系の機能を司っている神経ネットワークには2通りあって、1つが背側迷走神経系複合体、もう1つが腹側迷走神経系複合体と呼ばれていて、その機能は全く異なるからですね。だから自律神経系のバランスは厳密には、交感神経系、背側迷走神経系複合体、そして腹側迷走神経系複合体のバランスで調整されているというわけなのです。

 

ヒトに関わらず哺乳類はこれらの神経ネットワークを持っているのですが、これらの調整がその時々でなされなければならないのは、動物は時に生命の危険にさらされながら、その命を長らえさせるために最善の体調、精神状態を保たなければならならないからですね。普段安全な環境で生活している間には、過度に緊張する必要もなくリラックスし、同種の他の個体と協調して過ごすことができ、その際には社会的なシステムを司る腹側迷走神経複合体を中心とする神経ネットワークが活性化しています。ところがもし動物が不意に天敵に出会ったとすれば、その際には逃げられるようなら全力で逃げる、あるいは傷つくことを覚悟で天敵と戦ったりします。その際には呼吸器系、循環器系、筋骨格系を最大限に利用して運動能力を発揮する必要があるので、交感神経系が活性化します。ところが、いよいよ逃げることも闘って勝つ可能性も見込みもないとなると、「死んだふり」という行動をとることもあります(こういう作戦をとれるのは、オポッサムなど限られた動物に限ってはいますが。おそらく皆様が山で熊に出会ったら死んだふりをすれば生きる可能が最大になると考えたとして、実際には怖くてできないでしょう)。そして、こんな風に「不動」という戦略を司るのが背側迷走神経系複合体だと思ってください。難しいので、交感神経系、腹側迷走神経複合体、背側迷走神経系複合体の解剖学的な構造は申し上げません。

 

大切なのは背側迷走神経系複合体の機能が知られるようになったことで、心的外傷体験を受けたような患者様に対する理解が進んだことです。たとえば性被害を受けた女性が、その際に体が動かずなすすべもなく加害者の思うがままになってしまうようなことがありえます。そんな状態についてあとで第三者から「本当は自分も喜んでたんだろう」などと心ないことを言われると、被害者の方はさらに心を深く傷つけられてしまいます。しかし、ポリヴェーガル理論は「そうではない」ということを教えてくれています。つまり、被害を受けるその瞬間に逃げることもできず抵抗もできなくなるのは、哺乳類が進化の過程で図らずも獲得され、危険に遭遇した際に無意識レベルでとられるサバイバルのためのメカニズムである、というわけです。それが最善の方法なのかどうかは結果論になりますが、それは被害者の意思を越えた生理的な反応なのです。治療者はまず被害者である患者様にそのことを説明し、その際の反応が「想定をはるかに超えた異常な事態に対する、自然な生理的な反応だった」ことを伝え、患者様が自身を責めたりすることのないようにしてさしあげる必要があります。その上で、腹側迷走神経系複合体を活性化させて背側迷走神経系複合体の過活動を抑えることを通して、フラッシュバックのように呼吸が荒くなったり、心臓がドキドキしたり、筋肉が異常に緊張して体も動かせなくなるような状態を改善していく必要があります。そのために役立つ治療として、ソマティック・エクスペリエンシング、センサリーモーター・サイコセラピーなどいろいろな治療が開発されてきてもいますが、私の行っている催眠療法もとても有効な治療法の1つになります。

 


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