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福永武彦の『忘却の河』 〜 トラウマ・罪責感・ふるさと

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福永武彦の『忘却の河』 〜 トラウマ・罪責感・ふるさと

2017年9月25日

長編小説に分類されるほど紙幅は多くないようにも思うのですが、随分長いとの印象が読後に残るのは、主人公の藤代が生涯抱え続けたものの重さのためなのかもしれません。藤代は小さな会社の社長で、寝たきりの妻、母を看病する事情もあって婚期の遅れている長女、大学生で奔放な次女との4人家族です。皆それぞれに家族愛を持ち合わせてはいるのですが、互いの気持ちが理解できず、各自の思いを自身の中に閉じ込めて苦しむ様子が、各章ごとに独白という形で表現されています。

 

藤代は一家の大黒柱で、仕事熱心な一方感情表出は苦手で、典型的な一昔前の日本の父親像といえましょう。他の家族からすると、藤代は家庭には関心の薄い父親のように見えてしまいます。しかし読み進めていくうちに、それも藤代の通り抜けてきたトラウマと、そこから生じる罪責感に起因するところが大きいと推察されてきます。まず知られるのが、出征兵士として南方で敗戦を迎え、戦友の死を目の当たりにしてなす術がなかったことです。もちろんそのことで藤代が責められる理由はないのですが、トラウマ体験で生き残ったことに対する罪の意識はトラウマ罪責感と呼ばれ、震災や交通災害、テロのような状況でもまれならず認められる症状です。次に、これは藤代自身にも責任がないとはいえないでしょうが、結核療養中に世話をしてもらった看護師と恋に落ち、結婚を約束するに至ったものの、家族の意向もあってその約束を果たせなかったことです。その後藤代が北陸の恋人の生家を訪ねた時には、恋人は藤代との間に身ごもったのを恥じて海から身を投げたと知らされます。罪の意識から藤代は自身が幸福になってはならないと感じていたようにも推測され、恋人が身を投げた海岸の賽の河原から持ち帰った石をその後長きにわたって手元に置いていました。両親が藤代のために選んだのが現在の妻ですが、妻との間に最初に授けられた子供は幼くして病死します。藤代も辛くなかったはずはありませんが、その気持ちは悲嘆に暮れる妻とは分かち合うことが出来ず、「子供の死を悲しまない」と誤解されて妻からは以後ずっと責め続けられます。妻にとっても不幸な事態ですが、そのような事情から両親の間に心が十分に通い合わなかったためか、2人の娘は「自分は本当の子供ではないのでは?」との疑問を秘密裡に持ち続けています。寝たきりの妻が他界した際には藤代に安堵感もあったかもしれませんが、夫婦が理解し合う機会は永遠に失われ、妻を幸せに出来なかったとの罪責感をさらに重ねることとなりました。小説も最後の方になって、藤代は東北の貧しい家に生まれたために間引きされそうになり、幼少期に育ての親にもらわれたとの情報が種明かしのように与えられ、藤代のトラウマは胎児期から始まっていたと想像されもします。

 

妻の死後、長女は結婚が決まり、次女の「父の本当の娘ではない」との誤解も解けて、藤代家はようやく落ち着いていきますが、妻が他界直前に残した「私のふるさとが海にあるような気がします」との言葉は、「ふるさと」という最大の問題、課題を藤代に突きつける契機となりました。その答えを探しに、30年を経て恋人が身投げした地を再び訪ねることになるのですが、そこで藤代が見出したものは・・・・・・興味を持って実際にこの小説を読んで下さる方のために、記さぬままに残しておきましょうね。

 

 


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